司法修習生だからということで万里は光太郎のことを「弁護士の卵」を略して『弁たま』というあだ名で記憶していたらしい。
「どうもこうもないですよ」
運良く皿の上に落下した出汁巻き卵を箸でつまみ直す。
「ヤツの長ったらしいメールは相変わらずなの?」
「うん、模試の成績がどうだったーとか」
「模試の話かいっ」
万里はテーブルの上を叩いて、「たまー」と小声で呟きながら両手で顔を覆う。
出汁巻きをひと口かじる。甘じょっぱい汁が口の中に広がっていく。
社会人学生の桃子にとって、一度社会人を経験して司法修習生になった光太郎は自然と波長が合う相手だ。
最初の印象は最悪だった、が。
桃子が時々出ていたローカルの深夜番組のファンだった光太郎が、フェイスブックで桃子を見つけて友達申請をしてきたのが始まりだった。
ただのファンかと思っていたら、光太郎は『タレントなのか何なのかわからないあなたが、地元の経済を語るのが不愉快だ』というメッセージを送りつけてきた。
所属事務所から『わけのわからないメッセージやコメントは無視しろ』と言われていたので桃子は光太郎のメッセージを無視した。
無視していると、今度はプロフィールを見たのか『あの私大の雄と呼ばれる大学の学生さんだったのですね。失礼しました』で始まる長い謝罪のメッセージが届いた。
万里が顔を覆っていた両手を下ろして中ジョッキに手をのばす頃にはもう口の中の出汁巻きは余韻も残らず胃におさめられていた。
桃子は横の椅子に置いたバッグの中からドーナツ型のケースを取り出した。
「何それ?」
「忘れないうちに飲んでおこうと思って」