間仕切りで6つに仕切られたケースには昨日女医から処方された鉄剤と肌荒れ防止のビタミン剤が2錠ずつ入っている。
1日3回、朝昼晩の食後に飲むようにと言われたが、万里との話に夢中になって飲み忘れそうだ。
「いつもの皮膚科で血液検査したら貧血らしくて」
「きっと弁たまのせいよ」
万里は荒々しく中ジョッキを手にすると、わずかな残りを名残惜しそうにもせず一気に飲み干した。
「数値があと0.1足りなかったら、輸血が必要だったらしいです」
空になった中ジョッキに口をつけたまま、万里の動きが一瞬止まった。
桃子は手のひらに乗せた4錠を頬張り、烏龍茶で流し込んだ。
「桃ちゃんも北斗病院で診てもらってるんだっけ、筋腫」
大きく息を吸い込んで桃子は頷き、音を立てないようにグラスを置いた。
「多分、今度こそ手術を勧められると思います」
万里は目を閉じ、腕を組みながら椅子の背もたれに背中を預ける。
「出会った頃は子役だった桃ちゃんが、自分と同じ病気で同じ病院で手術になるなんてねぇ」
万里は余韻に浸るように見せかけて、目を見開いて笑顔で身を乗り出した。
「担当、伊藤くんだったよね? 上手かったよ、手術」
「残念、今の担当は溝口センセ」
以前、桃子の担当だった伊藤医師は急に退職してしまった。
そこで代わりに担当になったのが不妊治療を専門とする溝口医師だった。
万里は一瞬がっかりしたような表情を見せたがすぐに真顔になると、姿勢を正した。
「絶対、弁たまのせいなんだから」
万里は空のジョッキに目をやると、手を高く上げて店員を呼んだ。