お目当ての婦人科外来は、受付から離れたところにある階段で2階に上がり、中庭の見える渡り廊下を越えた先を右に曲がって一番奥の行き止まりの手前にある。
北斗病院は市内の病院の中でも古い総合病院で、増築に増築を重ねて長くなった廊下のいたるところに『移転のお知らせ』と『新施設の工事進捗レポート』が張り出されている。
階段を上っている途中から桃子の呼吸は荒くなり、視界は暗くざらついていた。
いつも遠いと思っていた婦人科がもっと遠くに感じる。
やっとの思いで婦人科の窓口にたどり着いた頃には、予約時間を少しオーバーしていた。
「溝口先生の診察は1時間待ちです。後ろの待合室でかけてお待ちください」
振り返ると婦人科の患者専用の待合室があった。
開放された入り口から女性が一人ベンチに腰掛けて文庫本を読んでいるのが見えた。
そっと一歩入ると、中にいた女性たちが一斉に顔を上げてこちらに鋭い視線を注いだ。
桃子は反射的に身をひるがえして廊下に出た。
待っている女性の人数が意外にも多くて驚いたのと、何か約束でもしていたかのように全員が同じタイミングでこちらを向いたのが怖かった。
しかも、敵意さえ感じる視線だった。
待ちくたびれて殺気立っていたのかもしれないが、同じ女同士、しかも女性特有の疾患を抱えている者同士のはずなのに、敵対視されるとは思わなかった。
桃子は廊下の行き止まりの手前にベンチを見つけ、腰を下ろした。
照明が乏しくて薄暗いが、あまり人目につきたくないのでちょうどいい。
赤いタータンチェックのストールを羽織り直すと、目を閉じてほんのり冷気の感じるコンクリートの壁にもたれた。
「相川桃子さん、2番へどうぞ」
診察の順番がまわってきた頃にはもう他の患者の姿はなく、静まり返っていた。